土地さえ購入すれば、そこに自由に建物を建てられる。不動産について馴染みがないと、そう考えてしまうのは無理のないことです。
しかし実際には、その土地のあるエリアごとに、建築できる建物に条件が付けられています。このエリアというのが、何を隠そう用途地域というもの。
このページでは、何かと混乱しやすい用途地域についての基本的な知識を解説していきたいと思います。
この記事がおすすめできる人
- 土地購入を検討していて、用途地域の基本知識を把握したい。
- 自分たちの建てたい住宅がどの用途地域で建てられるか知りたい。
- 用途地域にどのような種類があるか知りたい。
- 用途地域をチェックする時のポイントを知りたい。
- 自分の購入したい土地の用途地域を調べる方法を知りたい。
なお以下の記事でも「土地」や「注文住宅」について詳しく解説しています。ぜひ、本記事と合わせてご覧ください!
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用途地域とは?基本のキ
用途地域とは、建物の目的が定められている地域のことです。
生活圏について考える時、はっきり意識はしなくとも、「この辺りには商業施設が多い、この辺りは住宅地が多い」というように、大まかに地域をグループ化して認識している人がほとんどでしょう。
こうしたエリアごとの特性は、自然発生することもありますが、ほとんどは計画的に作られたものです。
というのも、その土地に何を建てるかというルールがないと、無秩序に建物が立ち並び、生活の利便性を損ねてしまうから。
そうした事態を避けるために、都市計画法という法律に基づいて、エリアごとに制限を課すことになったわけです。
住宅地であれば住宅系の、商店街であれば商業系の用途地域に含まれ、それぞれのエリアに定められている建築条件をクリアした建物しか建造できないことになっています。
それぞれの用途地域で何が違う?
それでは、用途地域によって定められている建物の条件について見ていきましょう。
建物の種類
住居であれば、工業専用地域を除いてどの用途地域でも建てられます。一方、店舗や商業施設などには、用途地域ごとに制限があります。
どの用途地域に当てはまるかによって住環境も大きく違ってきますから、土地探しをするときは候補の物件だけでなく、周辺地域の都市計画もチェックしておくことが大切です。
建ぺい率
建ぺい率というのは、土地の面積に対する、建築面積(建物の面積)の割合のことです。用途地域によって、30〜80%の範囲で決定されます。
例えば40坪の土地を買ったとしても、建ぺい率の限度が50%に定められていては、20坪(40坪×50%)の住宅しか建てられません。
古くからある住宅地などの場合は、建ぺい率が30%というエリアもあり、広い庭を前提に建てる住宅を考えねばならないということが考えられます。
容積率
容積率というのは、土地の面積に対する、延床面積(建物の床の面積の合計値)の割合のことです。建ぺい率と同じく、用途地域によって50〜1300%の範囲で決定されます。
計算上は土地面積に対する割合ですが、実際に購入を検討する場合は、建ぺい率と合わせてどういった建物が建築可能かを判断することになります。
例えば建ぺい率が50%、容積率が100%と定められた30坪の土地があった場合を考えてみましょう。
単純に計算すると、30坪の平屋、または上下階15坪ずつの2階建ての住宅がまず思い浮かびます。しかし30坪の平屋は、建ぺい率50%をクリアしていないため、建てられません。
このように、建ぺい率と容積率のバランスを鑑みつつ、その土地で理想の住宅が建てられるかどうかを検討していく必要があるわけです。
高さ制限
高さ制限は、その名の通り建物そのものの高さを10m、または12m以下に制限するもの。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域という用途地域に適用されます。
斜線制限
斜線制限も高さ制限の一種。道路や隣接する土地の境界線からの距離によって、建物の各部の高さが制限されます。
ちなみに斜線とは、境界線上の所定の高さから、敷地側に所定の角度を傾けた直線のことを言います。
具体的な数字は、用途地域や土地の境界が道路か住居かといった条件によって異なりますが、いずれにせよその土地に建てられる建物は、この斜線を超えない高さであることが求められます。
誰が決める?
用途地域は、そのエリアの都市計画に基づいて決定されます。
そして都市計画を定めるのは、区市町村や都道府県、国土交通大臣です。
もちろん、独断で都市計画を組み立てることはなく、住民や専門家からの意見を参考にし、大多数にとって利便性の高い都市を実現するために最善が尽くされます。
用途地域の種類を知りたい時はどうする?
最近は、各地方の公共団体がネット上で都市計画に関する情報を公開していることも少なくありません。
用途地域はもちろん、都市計画道路などの情報も手に入りますから、その行政区域の将来像も含めて土地の購入を検討したい場合は、ぜひ活用されてみると良いでしょう。
ちなみに、都市計画図については、各自治体の役所や図書館などで参照することもできます。ネットで情報が見つからなければ、そうした公的機関を訪ねてみることをおすすめします。
種類について
用途地域は全体で13種類あり、大きく住居系、商業系、工業系、という3つの系統に分類できます。
それぞれどういった地域で、どのような制限があるのかを解説します。
住居系
住宅であれば、工業専用地域を除いたどの用途地域でも建てることができます。
とはいえ、住居が密集している方が多くの場合、生活の利便性を高めることができるでしょう。
実際、住居系の用途地域は3系統の中で最も種類が多く、多くの家庭がこの地域を前提に土地探しをしています。
早速、住居系用途地域の種類と概要を見ていきましょう。
第一種低層住居専用地域
文字通り、3階建て程度の低層の住宅しか建てられない地域です。店舗併用住宅であれば建築可能ですが、専用の店舗や事務所等は建てることができません。
コンビニを常用するライフスタイルを送っているような場合は不便ですが、静かな住環境を望むなら、第一種低層住居専用地域が向いていると言えます。
ただ、住環境を重視したエリアである分、自身が建てる住宅にも相応の制限(建ぺい率や容積率等)が求められます。特に古くからある住宅地や高級住宅の多いエリアは条件が厳しいため、事前にしっかり確認されることをおすすめします。
第二種低層住居専用地域
第一種低層住居専用地域に次いで厳しい建築条件が課される用途地域です。
第二種低層住居専用地域は、第一種低層住居専用地域では建てられなかった専用店舗や飲食店、事務所(いずれも150平方mまで)の建物を建てることができます。
第一種中高層住居専用地域
第二種低層住居専用地域からさらに規制が緩和された地域で、住居に加え、500平方m以下(ただし2階以下)の商業施設を建てることができます。
第一種中高層住居専用地域では、小規模のマンションやアパートも目立つようになり、賑わいのある住宅地となってきます。
第二種中高層住居専用地域
住居に加え、1500平方m以下の店舗や事務所(ただし2階以下)が建てられる地域です。
住居専用の地域でありながら、小規模のスーパーなども建てられるため、先に紹介した用途地域の中では最も利便性が期待できるエリアと言えます。
第一種住居地域
住居を前提としつつ、3000平方m以下の中規模の商業施設(スーパーやホテル、運動施設など)の建築が認められる地域です。
環境に配慮していれば、小ぶりの工場を建設することもできます。
利便性は高いですが、慎重に場所を選ばないと騒がしさに煩わされる可能性も。
第二種住居地域
1万平方mまでの店舗や事務所、ホテル等の建設が許される地域です。
その地域の中核となる、駅や幹線道路のあるエリアが該当することが多いでしょう。
住居が前提の用途地域ですが、賑わいのある商業施設(カラオケボックスやパチンコ)も建設できるため、この地域で土地購入を検討する場合は将来的にそうした施設が近隣に建てられないかどうか、事前に吟味しておくことが大切です。
田園住居地域
第二種低層住居専用地域のルールを踏襲しつつ、ビニールハウスや倉庫など、農業目的で使う各種施設を建築できるよう、規制が緩和された地域です。
地産地消を促進するという目的で設けられた用途地域で、農業を営んでいる、または将来的に農業に携わりたいと考えているなら、この地域が主な選択肢となるでしょう。
また、田園住居地域は長閑な風土のところが多いため、お子さんを伸び伸びした環境で育てたい、というような要望があるなら、検討してみる価値はあるはずです。
準住居地域
第二種住居地域の規制を踏まえつつ、自動車関連施設や映画館、倉庫等の建築が認められている地域です。
住居系の用途地域の中では最も幅広い建物を建設することができます。
商業系
商業系の用途地域は、文字通り商業施設を主眼にしたエリアです。住宅を建てることもできますが、住まいに静けさを求めたい人には向きません。
ある程度賑やかさに寛容で、生活の利便性を重視したい人にマッチする用途地域と言えるでしょう。
近隣商業地域
風俗関連のものを除き、おおよそどんな商業施設でも建築することができます。
文字通り、住居系の用途地域の周辺に割り振られことが多く、身近なところでは商店街などが近隣商業地域に当てはまるでしょう。
商業地域
近隣商業地域の規制をさらに緩くしたもので、風俗関連の施設も建てることができます。
都市部の繁華街の多くは、商業地域に該当します。住居の建築も認められていますが、安全性などへの懸念もあり、商業地域に新しく低層の住居を構える人は多くありません。
工業系
工場などの建設に特化した用途地域です。
準工業地域、工業地域、工業専用地域の3種類に分類されます。基本的には商業系用途地域に工場を加えるイメージですが、工業専用地域は13種類ある用途地域の中で唯一住宅を建てることができないという特徴があります。
準工業地域
準工業地域は、商業施設(風俗含む)に加え、周辺環境に影響を及ぼす可能性のない工場を建設できる地域。古くからある町工場などはこの用途地域に分類されるでしょう。
住宅や工場、商業施設など雑多な住環境であることが多く、騒音問題などのご近隣トラブルが発生するリスクが他と比べて高いエリアです。
工業地域
工業地域は、どんな工場でも建築可能な地域。
住居や1万平方m以下の店舗、風俗施設などは建てられますが、危険物の貯蔵・処理が認められる地域でもあるため、住むには不向きと言えます。
工業専用地域
工業に特化した地域で、13種類ある用途地域の中で唯一住宅を建てることができません。
石油コンビナートや製鉄所、花火工場など、万が一の時に周辺に与えるダメージの大きい工場は工業専用地域に建てられます。
湾岸部の工業地帯は、概ね工業専用地域と考えてよいでしょう。
土地購入におすすめな用途地域
住宅を建てる目的であれば、工業専用地域を除いてどの用途地域でも住宅を建てることはできます。
とは言え、ライフスタイルによって向き不向きが考えられますから、ここではよくある要望別に、どんな用途地域がマッチするのかを見ていきたいと思います。
静かに暮らしたい
静かさを重視するなら、第一種低層住居専用地域が向いているでしょう
文字通り低層(高さ10〜12メートル以下)の住宅、または店舗兼用の住宅しか建てられないエリアのため、将来的にも騒々しさから距離を置いた生活が見込めます。
注意点としては、専用店舗や商業施設等が建築できない一方で、幼稚園や小学校〜高等学校などは建てられるという点です。
お子さんが育つ過程では利便性が高いかもしれませんが、そうした施設から漏れ聞こえる生活音を、いずれ負担に感じないとも限りません。
また、第一種低層住居専用地域は、居住性を重視している分、高さや建物と外壁までの距離などの制限も多いです。
メリットと表裏一体の部分ではありますが、建てたい住宅と住環境(用途地域)との間にバッティングする事項がないか、事前にしっかりチェックしておくことが大切と言えます。
静かに暮らしたいが、近くに小規模な商業施設(コンビニ等)はほしい
情報化の波を受けて、コンビニはますます便利になっています。
単純に食品や生活用品を購入できるだけでなく、各種役所手続きや宅配便の受付・受け取りなど、社会インフラとも呼べるほど深く生活に根ざしています。
近所に一軒あるだけで、その地域の利便性はぐっと高まります。
ただ、第一種低層住居専用地域にはコンビニが建てられません。そのため、コンビニが最寄りにあってほしいと望むなら、第二種低層住居専用地域、ないし第一種居住地域を中心に土地探しされることをおすすめします。
50平方メートルまでの店舗・事務所しか認められない第一種低層住居専用地域に比べて、第二種低層住居専用地域は最大150平方mまで、第一種住居地域は最大3000平方mまでの商業用の建物が建てられます。
大規模商業施設は望めませんが、コンビニや飲食店など、あると便利な店舗が少なからず近隣に建っているはずです。
多少騒がしくても利便性が高い方がいい
より生活の利便性を重視するなら、近隣商業地域、ないし商業地域を中心に土地探しされることをおすすめします。
一般に商店街が作られるのは、近隣商業地域からとなります。
また、商業地域は、その町の中核、都心部では駅のあるエリアが該当します。商業施設が集中するだけに、生活の利便性は格段に向上するでしょう。
注意したいのは、商業施設が立ち並ぶ分、低層の住宅だと日陰になりやすいという点。住居系の用途地域に比べると、騒々しさが増す点などです。
もし住環境の良し悪しに確信が持てないようなら、購入を1〜2年遅らせて、類似する環境の賃貸物件に住んでみることをおすすめします。
土地探しは一期一会ですが、ギャンブル的な判断で焦って購入するのは避けたほうが無難です。
商業地域周辺で土地探しをする場合は、いっそう慎重に、候補の土地を取り巻く環境をチェックすることを意識されると良いでしょう。
購入候補の用途地域を調べるときにチェックしたいポイント
用途地域は、どの種類に当てはまるかによって建築できる建物が違ってきます。
そのため、土地購入時には慎重なリサーチが不可欠。将来的な増改築や、用途地域が見直される可能性なども検討しながら、後悔しない選択肢を選ぶことが大切です。
基本的には用途地域の種類をチェックすればOKですが、購入候補の土地だけ見ていると、思わぬトラブルに陥る可能性も。
ここでは、特に注意したい2つのポイントをピックアップして紹介します。
用途地域の境界線にまたがっていないか
用途地域は、土地の境界に沿って決められるものではありません。そのため、1つの土地が複数の用途地域の境界線にまたがってしまうケースも考えられます。
この場合、その土地の用途地域がどう判断されるかというと、占めている範囲の割合によって決定されます。
最も広範囲を占めているエリアが、その土地の用途地域になるわけです。
これは建築基準法の第91条で定められている基準なのですが、注意しなければならないのは、適用される建築条件は項目によって違ってくることです。
前述の通り、用途制限は土地の最も広範囲を占めている用途地域のものが適用されます。
しかし例えば高さ制限はその土地にまたがっている各用途地域のものが、容積率・建ぺい率の限度は用途地域ごとの敷地面積の加重平均が、それぞれ適用されます。
土地が複数の用途地域にまたがっている場合、適用される条件が曖昧なままでいると、後になって予想外の制限を受けないとも限りません。
契約を結ぶ前に、その土地で自分たちが思い描いている住宅が建てられるかどうか、しっかり確認されることをお勧めします。
ちなみに、用途地域が複数の土地にまたがっている場合の判断基準は、建築基準法の第91条、また、第52条〜第57条、第67条に記載があります。
専門家に尋ねる際に、自身でもある程度の知識を持っておきたい、という人は、参照されてみると良いでしょう。
周辺の用途地域がどうなっているか
土地の用途地域ははっきりしていても、他の用途地域と隣接しているような場合には、注意が必要です。
特に都市部では用途地域が複雑になる傾向があり、住宅地と思って購入したのに数年経ったら隣にいかがわしいお店が建ってしまった、という事態も考えられます。
冒頭でも触れましたが、用途地域を確認する際は、購入候補の土地だけでなく、その周辺エリアについてもチェックしておくことが大切です。
まとめ
- 用途地域には13の種類があり、大きく住居系、商業系、工業系に分けられる。
- 住宅であれば、工業専用地域を除いて、基本的にはどの用途地域にも建てられる。
- どの地域を選ぶべきかは、建てたい住宅や住環境で重視したいポイントによって違う。
- 住宅専用地は閑静で過ごしやすい反面、建築条件が厳しい。ある程度商業施設の建築が認められている用途地域の方が、住環境と建築条件のバランスがいい。
- 用途地域を調べる場合は、「エリア名 用途地域」で検索すると公的な情報が出てくるケースが多い。確実な方法は役所を訪ねること。
用途地域について正確に把握するためには、難解な法律を読み解く必要があります。
また、1つの土地が複数の用途地域に跨っていることもあり、専門知識がないと確実に判断することは難しいでしょう。
大切なのは、用途地域を判断することではなく、土地の売買契約を結ぶ際に確認すべき事柄を知っておくことです。特に建ぺい率や容積率といった具体的な建築条件については、購入前に抜け漏れなく提示してもらうことをおすすめします。
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